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残業は集中、感染、遺伝する——『残業学』が示す長時間労働の不都合なメカニズムとは

 

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)

 

 

働き方改革の影響で残業ができなくなったビジネスマンが増えた。
 
長時間労働どころか、超・長時間労働が問題になっていたため、昨今の残業規制の風潮は喜ばしいものになる…はずだったが、どうやら“形骸化”が起きてしまったようだ。
 
労働時間を減らしたとしても、仕事量を減らすわけでも利益目標を見直すわけでもないならば、単純に現場の負担は増える。
 
しかし残業はできないから誰かが責任を取らねばならない。
 
そこで、課長クラスの責任者が隠れてサービス残業する事態が各地で起きている。
 
また、残業を減らすのはいいが、残業代をアテに生活をしていたビジネスマンは家計に打撃を受ける結果となった。
 
残業がなくなれば日本社会がハッピーになるかと思えば、案外そうでもなかった。
 
そもそもなぜ残業は生まれてしまうのか? 今まさに日本中で渦巻く疑問を客観的な統計データをとって分析・考察したのが『残業学』(中原 淳+パーソル総合研究所/光文社)だ。
 
本書を読みこむと、いかに残業が複雑な要因で生み出されているのかよく分かる。
著者であり立教大学経営学部教授の中原淳先生と、同氏が立ち上げたパーソル総合研究所の調査データによると、残業は「集中」して「感染」し、そして「遺伝」してしまうのだそうだ。
中原先生は「残業インフルエンサー」という表現を用い、この恐ろしいメカニズムを本書で説いている。

■マンガやドラマと違う“仕事がデキる人”ほど残業する現実

 

よくマンガやドラマで「仕事がデキる人ほど残業が少ない」描写を見かける。
 
しかし現実は違う。仕事がデキる人ほど仕事が集中してしまうのだ。仕事を早く終わらせようと努力を重ね、それを実現してしまう人ほど上司の目に留まる。
 
すると上司は、その優秀な部下に追加の仕事を与えてしまう。同研究所の調査によると、「優秀な部下に優先して仕事を割り振っている」上司は、1000人中約600人だそうだ。
 
しかし、なぜ上司はデキる部下に仕事をどんどん与えてしまうのか。なぜ労わろうとしないのか。
 
実は上司にも残念な事情があった。本来上司は、部下を育てる職務がある。
 
そのため部下を手塩にかけて一緒に業務を遂行すべきなのだが、社会の変化によって業務が複雑化。
 
日本企業にそんな余裕はなくなってしまった。「プレイングマネージャー」と呼ばれる、自分の目標とチームの目標を同時に追う上司も現れ、とにかく時間がない。
 
そこで優秀な部下に仕事を投げることで、自分の業務に集中できる。結果、長時間労働が生まれてしまうのだ。
 
この他、日本と外国の雇用契約の違い、つまり「職務の範囲」を明確に規定されていない“日本的な働き方スタイル”によって仕事が無限に生まれるといった原因もあるのだが、気になる方は本書を読んでほしい。とにかく仕事が「集中」すると次の原因を生む。「感染」だ。

■「多元的無知」と「フェイク残業」を生む「感染」のメカニズム

 

職場で上司や同僚が終業時間を超えて働いていると帰りにくい雰囲気が生まれる。その上司が「先に帰っていいのに」と考えていても、「あいつは努力しないやつだ」と思われたくないがために残業をしてしまう。
 
これを「多元的無知」という。これは「自分はAだと思っているが、自分以外の人はみんなBだと思っている」と予期することで、結果的に集団が考えていると“思われる”Bに行動を合わせてしまうこと。
 
みんな残業したくないのに、残業したいと勝手に予期してしまい、“腹の探り合いに失敗”して残業してしまうのだ。
 
さらに「感染」のメカニズムとして、「残業インフルエンサー」の存在がある。仕事のデキる人がいる職場は、たいていその人が遅くまで残業している。
 
結果、多元的無知が生じるばかりか、その人より早く帰ると「あいつは仕事のできないやつだ」と見られる可能性を避けるため、「フェイク残業」をすることになる。要は「ほどほどの忙しさを演出するためのニセの残業」だ。
 
こうなるとその職場はみんな長時間労働をする「感染」状態になる。しかし、ここからさらなる悲劇が生まれる。「遺伝」だ。

長時間労働上司が次世代の長時間労働部下を育てる

 

中原先生の調査によると、入社してからはじめの数年間の「初期キャリア」で体験した働き方は、その後の仕事人生に大きく影響するのだそうだ。
 
つまり「若い頃に長時間労働を体験」すると、上司になった現在でも長時間労働をしてしまう傾向にある。
 
そればかりか部下たちに長時間労働をさせてしまう傾向にあり、今まさに長時間労働をさせられる若いビジネスマンは「遺伝」によって「長時間労働をさせる上司」になる可能性が高まる。長時間労働上司が次世代の長時間労働部下を育てているのだ。
 
この恐ろしい「遺伝」は、転職しても変わらない傾向にある。長時間労働上司の転職後のマネジメント行動を本書より抜粋したい。
 
・自分の仕事が終わっても職場に残る
・時間をかけて仕事をする部下を評価する
・優秀な部下に優先して仕事を割り振る
・これまでの慣習ややり方に固執する
 
こうして日本中が長時間労働をする現在の社会が形成された。本書で解説される残業のメカニズムに、きっと読者は戦慄するだろう。

■超・長時間労働をする人は「幸福感」が微増するナゾ

 

しかし、実はもう1つこの流れに抜けているものがある。
 
「集中」「感染」「遺伝」、これに加えて「麻痺」だ。中原先生によると、長時間労働を超える、超・長時間労働する人の中には、前者より「幸福感」が微増する傾向が判明したそうだ。
 
膨大なストレスを抱え込んでいるはずなのに、なぜそのようなことが起きるのか。それを解くカギは、職場の環境や出世の見込み、そして働く本人の「有能感」だ。
 
この調査結果が示す、超・長時間労働の恐ろしい現象をぜひ本書で目にしてほしい。
 
また本書では、「働き方改革」の形骸化によって生まれた「改革ゾンビ」の実態についても解説する。
 
「PC強制シャットダウン」「22時以降消灯」「ノー残業デー」「残業申請書」など、経営者や上司たちが行う“現場を顧みない施策”によって弊害を受けた現場ビジネスマンたちの、ボロボロのゾンビのような姿で漏れ出る苦しみが本書で紹介されている。
 
本書は日本中で渦巻く疑問に答える1冊だ。なぜ残業が生まれるのか? なぜ残業をしなければならないのか? そんな怒りに似た疑問がわいたら本書を読んでほしい。
できれば、経営者や上司層に本書を読んでほしい。「働き方改革」という名ばかりの政策ではどうにもならないくらい、日本社会は限界が来ている。

 

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)